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コラム30(所有者不明土地問題2・相続登記問題と意見)

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このページは、コラム29(所有者不明土地問題1・相続登記は進むのか)の続編です

29.10.8執筆

※ 再度、所有者不明土地の問題とは

九州の面積よりも広い土地が、相続登記をしていなかったり、相続放棄されたことで、所有者が不明となっているという問題です。

これは、平成29年6月下旬に、所有者不明土地問題研究会(増田寛也座長=元総務相)が発表したもので、土地神話の崩壊を象徴して、いかに利用しにくい、または利用価値がない不動産が増えているかがわかる問題です。

その所有者不明土地(負動産)問題は、利用しない・できない土地という問題だけではなく、空き家問題や公共事業や災害からの復興ができないという社会資本の有効利用の妨げも意味しています。

 

第1.相続登記がされないことへの疑問

1.所有者不明土地と相続登記の関係のQ&A

 

 1.どうして、相続登記をしないことがあるのですか?

 1.相続登記は、権利の登記という側面から登記義務がないからです

 

そもそも権利とは、その権利を行使するか否かは、権利者の意志(私的自治の領域)にかかっているのです。

そのために、自分の権利は自分で守るものという考えが、不動産登記の権利登記の考え方(対抗問題など)にもあります。

しかし、いろいろな事情から、自分で相続登記をしなくなっているのです。

 

 2.相続登記をしない事情には何が考えられますか?

 2.例えば、次のような考え方があります

 

1.権利の知識自体がなく、自己利用として昔から登記していなかった

2.相続のように自分で買った不動産ではないから愛着も興味もない

3.不動産の価値が低いことに比して所有や登記する負担が大きい

 

もしかしたら、不動産登記法を立法したときには、まさか、(所有権という)権利の認識がない人や権利が要らない人がでてくるとは、考えなかったのかもしれません。

そして、最近は2又は3の(権利不要の)考え方が増えてきている気がします。

(相続登記の際に地方の登記も一緒に勧めますが、割が合わないと断られることが多い)

もしかしたら、

水は高いところから低いところへ流れるように人は合理的に考えるために、相続登記を放置しているのかもしれません。

 

 3.所有者不明土地問題の多くは、どこで発生していますか?

 3.所有者不明土地の多くは、都市部よりも地方に多いと思われます

 

少子化による人口減少、高齢化、長期の日本経済の停滞などによって、地方では仕事と女性と子供が減って高齢者だけが残るようになり、都会と地方の格差が広がってきています。

さらに、都市再生特別措置法が改正され、立地適正化計画制度(コンパクトシティ化)が国土交通省主導で動いていることも地方の不動産価値が下がる要因の1つです。

すると、地方の不動産は売れないし貸せないのにコストだけがかかるし、高齢化で管理できる人も減っていることで負動産と化してしまい、所有のメリットが見えず、相続登記をしないことになります。

 

 4.不動産の所有者になるとどんな負担があるのですか?

 4.登記費用や不動産の維持費など様々な負担が発生します。

不動産の所有者には、当然不動産の管理義務や税金の支払義務などがあります。

例えば、こんな費用が掛かります。

1.登記申請で支払う登録免許税や印紙代等の雑費

2.登記の手続を代行してもらう司法書士費用

3.固定資産税

4.管理費用(境界確認、草刈りや害虫の除去、柵の取付け、マンションの管理費等)

5.維持費用(建物の換気や修繕費など)

※ 相続取得には不動産取得税はありません。

このように、権利には同時に義務(負担)があります。(表裏一体です)

その他にも、ややこしいのは、一見、相続放棄をして相続人がいなくなっても、実は、相続財産管理人を選任しない限り、管理義務は残っています。

昭和の時代のように、将来は土地は値上がるという土地神話があった時代には、純粋に権利として、登記に期限も罰則もない法律でもよかったのかもしれませんが、これだけの負担がついてくるとわかると、価値が低い不動産(負動産)は欲しくないと思います。

 

 5.要らない不動産を放棄することはできますか?

 5.完全な所有権の放棄は、実務上困難です。

 

登記相談の際に、よく、田舎の土地を引き取ってもらう方法の相談があります。

そもそもの大きな問題は、不要な土地を引き取ってくれる制度が使えない(無い)ことが、根本にあります。

詳しくは、空き家と所有権放棄の問題のページで解説していますので、興味のある方はどうぞ。

 

 6.要らない不動産の相続登記をしないと困ることがありますか?

 6.直接的には不動産を利用したい人、間接的には自分に影響がある

 

例えば、直接的には、隣の人や公共事業を行いたい行政、その不動産を再開発したい不動産会社、その不動産の存在で迷惑している人などが困ります。

しかし、間接的には、自分が災害の被害者となった時にも、補助金が受け取れないとか復興が進まないことで困ることになりますし、近隣に迷惑をかけていることで地域から嫌われることになります。

 

2.現状の相続登記制度の限界

相続登記が権利登記である以上、登記をしない事も自由ですが、法律を立案した当時と現在では社会環境に大きな変化があります。

例えば、少子化によって人口が減り、相続が増え、高齢化によって不動産を管理する人も減り、不動産の所有に対する考え方も賃貸派が増えているように変わってきています。

その結果、市場には無価値な不動産(負動産)が増え、その管理を嫌い、国土が無秩序に荒れて社会資本が毀損してゆくことは、社会全体に影響があると思います。

 

そもそも登記とは、公示機能であり、公信力はないものの実際の売買や担保設定などの契約では、登記の公示機能に大きな推定力があるとして、取引に際しての重要な役割を果たしています。

しかし、不動産登記の名義人の現状が正確に反映されていないとすれば、登記を信じて取引したい利害関係人の利益を奪うものでしかなく、高い登録免許税を請求される不動産登記に意味を感じないと考える人もいると思います。

このような時代には、法務省がどこまで不動産登記法の改正を考えているかは、現時点では不明ですが、少なくとも今の不動産登記法では時代遅れだと感じざるを得ません。

 

第2.所有者不明土地の問題と相続登記問題への意見

1.相続登記の問題の解決には、義務化の検討も必要

答えは簡単ですが、義務化する理由が難しいです。

Q1で述べましたが、権利の登記は私的自治の問題があるからです。

権利登記の義務化には、憲法や民法の解釈に関わる問題の大変さがあります。

 

ところで、原則には例外が伴うものであり、私は、所有者不明土地問題は、社会資本の維持のためには、公共の福祉に従うと考えて相続登記の義務化という、多少の私権制限は許されるのではないかと考えています。

要するに、登記の現場を知る専門職としては、本来の登記の公示機能を回復するためにも、単独申請である相続登記や住所変更登記などは義務化が必要ではないかと思います

 

相続登記などの申請時に、(住民票などの)書類保存期間終了のために、法務局ごとに違う書類を要求される現状からも、一般の人にとってはより煩わしいことがあります。

現在の社会環境の変化に対応できない法律こそ、優先的に考えて改正する方向で議論していただきたいと思います。

 

参考:登記する義務がある登記とは?

不動産の表示登記や会社法人登記は義務となっています。(登記しないことに罰則あり)

 

2.所有者不明土地問題や相続登記促進への1つの意見

既に長期間、所有者が不明の土地(不動産)について

相続登記を促すという啓蒙策や少額の登録免許税の減免での解決は、困難極まりないと考えています。

繰り返しますが、要らない負動産と余計な義務を引き受けるために、自分から金を出して相続登記を行うことは考えにくいからです。

 

実際に、所有者不明の土地によって、東日本大震災や熊本地震、全国の土砂崩れなどの復興に大きな悪影響があり、当該地の住民は、生活に不安を持っていることも事実です。

その結果、最近になってようやく、空き家問題や所有者不明の土地問題として、国も重い腰を上げようとしていますので、この機会に大胆な計画も考えていいのではないでしょうか?

例えばですが、

試験的に、災害の復興地区を優先的に国庫帰属特区とすることも検討できると思います。

 

② 所有者不明土地(不動産)の問題は、引取り手がいないことが一番の問題

管理も面倒ですが、50年以上名義変更がされていない所有者不明の不動産に関しては、時限立法などで一定の公示をした後にその不動産だけの簡易かつ安価な不在者又は相続財産管理人制度を導入し、それを国や行政に限り利用できるようする代わりに、補助金で管理人報酬を工面して、真の所有者や特別縁故者が現れない限り国庫に帰属させる。

(特に、復興地区や道路計画、再開発地区などの処分では換金ができるので優先的に行い、相続財産管理費用をプール制にして、負動産への手続費用に充てることも1つの検討の可能性はありそうです)

※ プール制とは、高速や有料道路事業に利用されている料金流用制度です

 

もちろん、国庫帰属に至る費用は、行政代執行として相続放棄した人がいれば管理義務に基づいて請求し、所有者自体が不明・いない場合は、請求しようがありません。

 

それでも、

広大な不動産をいったん国家に管理させることが大切だと思います。

国家権力で、用途地域の規制も解除できますし、再開発や特区もできます。

つまり、国の力で、不要な土地を民間ではできない付加価値をつけてリサイクルすることができるのです。

 

例えば、国家的事業として、民間の活力も利用しつつ不要な土地を集約させて、大規模農業やごみの処分場、クリーンエネルギー基地、公園、避難場所、刑務所など、何らかの公共的な利用を推進した方が、将来の日本の財産になる気がします。

 

この所有者不明土地を民間の力で再生させようとしている団体(NPOなど)もあります

そして、少しですが効果が見えているケースもあると聞きます。

しかし、九州の面積をも上回り、これからも増えてゆく所有者不明土地問題の解決をボランティアに近い活動を前提とした民間に押し付けることには限界があり、生産に追いつかないと弊職は考えています。

国は、税収の事ばかり考えるのではなく、また、学者の机上の評論に終始するのではなく、現場に近い専門家の協力を得て、日本の国土全体のグランドデザインを考えるきっかけとして欲しいと弊職は思います。

 

なお、第3者の不動産を取得できる取得時効制度もありますが、制度を緩和すると弊害として、外国人に水源や山林目的などの資源目的で取得される可能性があります。

 

③ そして、これから相続登記をする方へは、

何らかのインセンティブを与える(アメ)事と並行して負担を与える(ムチ)事とのバランスをとっていかないといけない時代ではないかと思います。

通常の権利登記はともかく、相続のような一般承継の登記や住所変更のような単独申請の登記に関しては、共同申請の登記と違って相手方の圧力がありません。

そして、契約をした訳でもないので、登記が所有者次第となりやすい性質があります。

 

そこで例えば、例外的に相続登記の義務化として、登記期限を設定する。

準確定申告に合わせて、死亡後4か月以内であれば、登録免許税の減額又は免除、司法書士手数料の一部を補助する。(アメ)

※ 司法書士手数料の補助についても、価値が低い土地の登記を促すことと、補助金で登記調査を行うコスト、登記本人申請が増えて法務局の事務が停滞したりする影響を金額に算定すれば、合理的な考え方と言えないでしょうか?

 

相続税申告に合わせて、死亡後10か月以内を原則とした登記期間とするが、何ら補助も減税もない。

これを超過した場合は、遺産分割調停中などの特段の事情(これも税務署のように法務局に事前申告させる)がない限り、登記猶予期間を定めて違反者には過料(罰金のようなもの)をかける。(ムチ)

 

それでも、相続登記をすることに正当事由がないのに、無視する場合は、行政代執行で相続登記を法定相続で入れてしまい、それにかかった費用を過料(罰金のようなもの)と一緒に法定相続人に請求するくらい、厳しくしなければならないかもしれません。(ムチ)

登記などを整えたうえで、国が引き取るのであれば、無料ではなく、数年分の固定資産税分を対価として負担金を相続人に請求してから国が引き取る制度も検討の余地があると思います。(一種のアメ)

 

このように、アメとムチのバランスをとることで、所有者不明の土地がこれ以上増えないよう、相続登記を促進できれば、問題の拡大は免れると思います。

 

以上は、弊職の勝手な思い込みに過ぎません。

批判もあると思いますが、不動産と言う国の重要な社会資本を無駄にしてしまう人には、私権制限も公共の福祉に従う範囲においてはやむを得ないと思いますので、税務署並みに厳しい手続きを用意する覚悟がないと、負動産の相続登記は進まないと考えています。

 

3.さいごに

いろいろと書きましたが、災害にあった人の復興を願うとともに、相続手続きの簡素化と所有者不明土地の問題については、今後も気を付けて見届けたいと思います。

 

R5.5.18 追記

令和5年4月27日より、相続土地国庫帰属制度が施行されました。
令和6年4月1日より、相続登記の義務化がなされます。

➡ 下の方にリンクを設定しました

 

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